ロリータ・コンプレックス
ロリータ・コンプレックス(英語: Lolita complex)とは、幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情のこと。略して「ロリコン(Lolicon)」とも称される。俗称。語源は、中年の男性が年の離れた少女を愛するウラジーミル・ナボコフの小説『ロリータ(Lolita)』に由来する。
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概説
ロリータ・コンプレックス(略してロリコン)という言葉がいつどのようなきっかけで使われるようになったかは不明だが、1980年前後に急速に広まった。以前は主に日本で使われ、英語圏ではあまり使われていなかったが、近年は日本語でのrorikonを英語化した「lolicon」の語で海外でも使われるようになってきている[1]。
ロリコンとは、男性(主に成人の)の幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情を指すことが多い。また、女性でも幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情を持つ者、実年齢に関わらず幼く見える女性に惹かれる者、漫画、アニメ、ゲームなどに登場する幼女・少女キャラクターに惹かれる者なども指すことがある。
オタク文化としてのロリコン
ロリコンという言葉は、オタク文化の発展の中で、独自の意味を持ち、またキーワード的な役割を果たすようになった。そういった中で、関連する様々な言葉も作られた。
一部の同人・オタク世界では、小学生・中学生の年代に当たる少女への性的嗜好に限定してこの用語を用いることがある。この場合それ以上をアリス・コンプレックス、さらに下をハイジ・コンプレックスと呼んだりもするが、その年齢の言葉が日本で一気に広く知られるようになるのはほぼこの時期である。背景にあった状況としては、1970年代後半から蛭児神建の文芸同人誌『愛栗鼠』、1979年にはその増刊『ロリータ』があり、同年には吾妻ひでおらのグループの編集したロリコン漫画同人誌『シベール』が存在した。同人世界でロリコン・キャラクターとして知られたのは、宮崎駿監督の映画『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年12月東宝)の中で伯爵に監禁される美少女クラリスであり、映画内のルパンの台詞「妬かない、妬かない、ロリコン伯爵」は同人における「ロリコン」ブーム誕生の原点とされることもある。
更に1970年代に少しずつ現れた少女ヌード写真集が一般書店の店頭に出て、1979年の『プティ・フェ』(石川洋司)や『Little Pretenders』(山木隆夫)のような話題作を出していたことがある。どちらも有名ではあるが特に前者は爆発的に売れたため現在でもロリコンブーム期を物語る中では必ず聞かれる書名の一つになっている。
ロリコンの普及と分化
こうして1980年頃から幼少女への性愛を扱った表現が人気を集め、ロリコンという言葉は急速に世に氾濫し一般化した。日活が「にっかつロマンポルノ」作品として1983年に『ロリコンハウス おしめりジュンコ』(青木琴美主演)を製作したり、漫画では内山亜紀(=野口正之)『ロリコン・ラブ』のようなメジャーなヒット作品も現れた。
この1980年前後から1984年までは「ロリコン・ブーム」と呼ばれ、多くの写真集・雑誌・特集本などが出版された。この時代のロリコン特集本はなお、ロリコンの名の下に写真から漫画、文章まですべてひっくるめて含んでいることが多いが、他方このブームのさなかにロリコンをめぐる表現は急速に分化し、商業誌のレベルでも嗜好の違いが明確になって棲み分ける現象が進んでいった。
ロリコン漫画の発展
象徴的な例として、当時すでに行き詰まったエロ劇画誌からいくつかの商業誌が「ロリコン漫画誌」に転向していたが、『レモンピープル』とともにそのようなロリコン誌として知られた『漫画ブリッコ』が1983年、それまで毎号掲載してきた少女ヌードの写真グラビアを読者からの不評によって廃止し、さらにリアルな写実劇画からも決別して記号絵的な漫画をメインとする創作誌となっている。こうして本格的にジャンルとして成立したロリコン漫画の特徴としては、抽象的なデフォルメされた表現、非リアルな状況をつくる想像力の産物であることなどが注目される。
この頃のロリコン漫画には人ならざる異生物に犯される幼少女といったテーマが多かった。そしてアニメのキャラクター少女を自由に物語化して表現することも同人誌活動の間で普及する。こうした現象は評論家の注目をひき、1983年、中森明夫は後に有名になる『おたくの研究』(『漫画ブリッコ』掲載)において、おたくを本質的にロリコンと評し、そのなかでも生身のアイドル少女に執着するものと、アニメの創作キャラクターなどに執着するグループに分けている。
この後者に当たる漫画・アニメ、また1980年代後半からはゲームにおいて発展していった創作的・想像的なロリコン表現とその受け手たちの世界は、間もなく大きな独自領域を開き、日本にユニークなオタク系ロリコン文化を成立させることになった。
日本での法規制
1984年、国会は少女誌『ギャルズライフ』を取り上げ、少女向け性情報へ警戒を強める。1985年から初期のPCゲームの性表現が批判され、ロリコン漫画も折に触れて批判を向けられた。直接の規制を被ったのは、まず、一般紙のグラビアに載るほどメジャーになっていた写真分野(少女ヌード)であって、1985年警察による無修正写真の禁止、1987年には雑誌『プチトマト(雑誌)』発禁事件、児童福祉法の強化による摘発で弱体化していった。
1985年頃から『週刊女性』など女性週刊誌、また一般誌ではロリコン表現に対して「少女がロリコンの欲望の餌食に」といったバッシング記事が載るようになっている。1980年代には「新人類」という言葉に象徴される世代間文化の断絶、自らの嗜好やファンタジーを突き詰めて「内閉的」とみえる文化を作り上げた特定の若者層への、一般社会からの漠然たる不安があった。1988年末から1989年におきた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件において、これらの不安は現実に裏付けられたとも感じられ、法的規制の正当性が主張される契機ともなる。
1989年以降、漫画・ゲームとも沙織事件のような実際の摘発事件も含めて、規制圧力と自主規制に公然と晒されるようになった。批判に対抗するため漫画表現を守るための団体も作られ、長く論議が続くことになる。写真分野は決定的な打撃を受け、1989年以降日本国内での生産が困難になり東南アジアやロシアに撮影の場所を移したが、結局1999年の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律で壊滅、以降は性的な表現のないジュニアアイドル産業に場を譲った。しかし、小学生に小さなTバックの水着を着せてローアングルから撮影した「水着写真集」と名乗るDVDが販売されたりレンタルされた。児童ポルノと認定され摘発された事件もあり、一部店舗から撤去されたが、インターネットで流通が続いている。
性犯罪とロリコン
上述の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件によって、児童への性犯罪が一般に知られるようになってきた。
それが機ともなり、法的整備を要求する声が起こり、ロリコン表現に対する法的規制が整備されつつある。また、規制が甘いと考える立場も少なくは無い。
一方、そういった社会的認識と動きに対して、マスコミによる否定的な放送は偏見であるという指摘が各所よりなされた。また統計的観点から、ロリコン表現が出現する以前の方が性犯罪被害児童の数はずっと多かった事を理由に、表現への過度の規制が批判されている。[1]
性犯罪が一般の性行為と異なるのは、相手への思いやりに欠けていることである。ただ普通の恋愛感情がないことと、相手への気遣いのないセックスをすることは同じではない。また性犯罪は年齢に関係なく起きている。この点を考慮すると「ロリコン=性犯罪者」というイメージは特殊な事例(それはそれで処罰すべき対象ではある)から一般に類推を及ぼす早まった一般化(具体例:「ロリコンには犯罪を起こす者が居る」→「すべてのロリコン(的感情を持つ者)は犯罪者である」とは限らない)の一種と見なすことが出来る。なおこのようなニュアンスを避けるために「(プラトニック・ラブを含む)少女愛」という概念もあるがまだ一般的ではない。
少女への性愛としてのロリコン
第一次性徴期・第二次性徴期早期の幼女・少女への性的嗜好は概ね小児性愛という異常性愛として考えられている。性的成熟を終えた第二次性徴期後期以降の女性への性愛は概ね、精神医学では性嗜好障害とされておらず、かつ生物学的にも異性愛者の男が性的成熟を終えた女性の中から若い個体をセックスの相手として好むことは普遍的傾向であるものの、現代の多くの社会では、長期の義務教育を課し、その上の教育課程に進むことも半ば常態化しているため、10代後半の女性を性欲の対象とすることには社会的な圧力がかかる。歴史的には、現代以前の生活形態においては必ずしも異常なことではなかったものの、少女婚等の忌避傾向は時代・地域によって大きく異なる。
日本に限っても、深刻な人口減少に陥った18世紀の東北地方では十代前半の少女婚はごく当たり前に行われていたが、18世紀後半には中部地方以西では宗門人別改帳等による人口の調査研究によると女子初婚年齢が20歳を越えていたと推測される例が多い。現代に入り、婚姻年齢が上がり、「愛護育成されるべき児童」という概念が確立し、成人と児童との区別が厳格になされるようになるにつれ、社会道徳的・児童人権的な側面からも社会的に「逸脱」とされるようになった。
文化における禁忌としてのロリコン
欧米でも、日本やイスラーム世界同様、本来は10歳前半や10歳未満の少女を結婚対象や性の捌け口とみなすことは社会的に容認されていた。しかし、現代では再解釈されたキリスト教道徳に従い、他の地域に先駆けて、児童性愛の遂行を女児に対する重大な人権侵害として捉えるようになった。一概にはいえないが、児童ポルノ問題を経て、幼い少女の性を成人が欲情の対象とすることに対し厳しい政策へ向かった社会も目立つ。この種の漫画表現に対する規制も厳しい。
法的にはEUの一部やカナダのように法規制が緩やかな国もあれば、イギリス・アメリカ合衆国のように小児への性犯罪に厳しい態度(クリントン署名による法定強姦罪厳密適用令などで、かなりの州で18歳未満の児童との性交を強姦とみなすなど)をとる国まで、広がりがある。
ただし、禁忌の度合いと法規制は必ずしも直接的な関係にあるわけではない。これは、違法性において法益侵害と規範逸脱のいずれを重視するかが国により異なること、すなわち法体系の相違に起因する。例えば、日本では法益侵害を重視する学説が優勢であり、社会通念上重大なタブーである近親姦もこれ自体を犯罪として取り締まる法律はなく、近親婚を不許可とするのみである。それに対しコモンローを法基盤とする英米では社会規範からの逸脱を重く見る傾向がある。
関連書籍
- ラッセル・トレイナー 『ロリータ・コンプレックス』(Russell Trainer,The Lolita Complex.) 飯田隆昭 訳 ISBN 4884680081
- 心理学の観点から書かれた本。
- 内山亜紀 『ロリコンABC』 久保書店 1983年(Worldコミックス)
- 『ロリコン大全集』 改訂版 群雄社出版 1983年
- 『ロリコン白書 by ふゅーじょんぷろだくと』 エンドレス企画 1982年
- 内山亜紀 『ロリコン・ラブ』 久保書店 1983年
- 『体験告白・僕のロリコン=ラブ』 日本ダイパック 1983年
- 以上は、ロリコンブームのときの同時代出版物。
- 岩田薫 「大学生をおおうロリコン症候群(シンドローム)」 潮 1982年9月号
- ブームに対し一般誌が若年男性のロリコン化を取り上げるようになる。これはそのもっとも初期の論文。
- 『澁澤龍彦全集』 河出書房新社、1993年~
- 大塚英志 『「おたく」の精神史 1980年代論』 講談社現代新書 2004年
- 宮台真司ほか サブカルチャー神話解体―少女・音楽・マンガ・性の30年とコミュニケーションの現在 PARCO出版 1993年 ISBN 4891943602
- 当事者による歴史的な証言あり。性メディアや「おたく」と「新人類」の闘争。宮台は新人類寄り、「漫画ブリッコ」編集長だった大塚はおたくからの視点。
- 『少女愛』(宮島鏡著、作品社、2005年5月刊。文字通り、少女愛についての総合的な考察:ISBN 9784861820311)
- 『ロリコン-日本の少女嗜好者たちとその世界』(高月靖著、バジリコ、2009年10月7日刊。極めて広範な知見より考察された、密度の濃い研究書。ISBN 9784862381514)
関連項目
感情複合
- コンプレックス(感情複合)
- ファザーコンプレックス(ファザコン)
- マザーコンプレックス(マザコン)
- ブラザーコンプレックス(ブラコン)
- シスターコンプレックス(シスコン)
- 正太郎コンプレックス(ショタコン)
- エディプスコンプレックス
- エレクトラコンプレックス
- 性的嗜好
- ピグマリオンコンプレックス(人形愛)
性愛
文化
その他
脚注
外部リンク
- 日本のサブカルチャーにおける《ルイス・キャロル=ロリータ・コンプレックス》像の定着史(キャロル論だが、貴重なロリコン史概説をふくむ)
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